「今のあなたはまさに偶像そのものですね」
「お前、頭沸いたのか?」
誇らしげにけれど確かな嫌悪をにじませて笑う男をマサキは辛辣に切り捨てる。
救国の英雄。最強の魔装機神サイバスター操者。地上地底を問わず積み上げられた輝かしい戦績。へきえきするほどもてはやされた。そして、そこに流し込まれた悪意善意好意のヘドロに吐きそうになったことは一度や二度ではない。そこへ今度はアイドルである。もはや悪意しか感じない。
「偶像としてのアイドルですよ」
マサキの不機嫌を察したシュウは素早く自らの言葉を訂正する。
「偶像?」
「偶像の起源は象、幻影を意味するラテン語の『idolum』やギリシャ後の同じく現像、幻を意味する『eidolon』に由来します。偶像崇拝という言葉を聞いたことはありませんか?」
「どっかで……、聞いたような気はする」
だが、それと自分に一体何の関係があるというのか。
「自覚がないとは言わせませんよ」
「……」
無視は許されなかった。
そう、腹立たしいことに自覚はあるのだ。
古代、偶像は神や霊を象徴する像や彫刻を指し、崇拝の対象だった。そして、このラ・ギアスにおいて精霊王と契約しその人格を宿した魔装機神もまたその例に漏れず、それは魔装機神の操者であるマサキたちも例外ではなかった。
誰もが皆というわけではない。けれど確かに人々の信仰の一片は自分に向けられている。その事実の恐ろしさと苛立ち。そして一抹の嫌悪。けれどその「務め」を放棄することはできない。自分は魔装機神操者なのだ。
「心配せずとも、ちゃんと引きずり下ろして差し上げますよ」
すべて見透かされている。
その出自から生まれたときよりかしずかれ、民を見下ろす立場にいた男は崇拝の甘美をよく熟知していた。自由とは相反するその「檻」の毒と醜悪も。それゆえに差し出されたその言葉。ひねくれてはいるけれどそこに込められたのは確かな善意。だから、受け取ることはできる。
「お前はもうちょっと言葉の選び方を考えろ! ……まあ、そのときは頼むわ」
それでも、差し出された手を握り返すことだけは——決してできないけれど。
2025/06/27 SS-偶像
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