2025/07/06 SS-ポシドニア・オーストラリス

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SS_List1日記

 たまたま任務で地上に出た帰り、何とはなしに立ち寄った書店で特集コーナーを組まれていたらしい。
「世界最大? 植物?」
 ポシドニア・オーストラリス。オーストラリア西海岸中央シャーク湾で繁殖する全長一八〇キロを超える世界最大の海洋植物。
「二〇〇平方キロメートルの群生とか何かの冗談だよな?」
「事実ですよ。そうそう、ポシドニア・オーストラリスが生まれたのは今から推定約四五〇〇年前ですね。それとポシドニア・オーストラリスはクローン繁殖ですよ」
「よんせんごひゃ……。いや、待て。クローンっ⁉︎」
「ええ、ポシドニア・オーストラリスはクローン繁殖です」
 しかし、言葉とは裏腹にシュウの顔に驚きはない。興味がないのだろう。対してマサキといえば口をO型に開いたまま呆然としている。さすがに全長一八〇キロを越える植物それも単一植物が自然界に存在するとは夢にも思わなかったようだ。
「ポシドニア・オーストラリスと同じクローン繁殖で言えばアメリカ、ユタ州のパンドも興味深いですよ?」
 マサキの反応が面白かったのかシュウはさらなる爆弾情報をマサキに向かって放り投げる。
「ぱんど? 何だそれ?」
 素直に首を傾げれば、
「世界最古と言われるヤナギ科の陸上樹木です。四万本の木々で構成されその年齢はポシドニア・オーストラリスの推定四五〇〇年以上を遙かに超える一万六〇〇〇年から八万年と言われています。パンドは根で四万本すべてが繋がっているのですよ」
「はっ⁉︎」
 ついに跳び上がった。予想通りのリアクションにシュウはくっくと喉を鳴らす。ここまで人の期待に応えてくれる「人財」は探したところでそうそう見つかるまい。
「冗談じゃねえのかよ。あり得ねえだろ、そんなでたらめっ⁉︎」
「でたらめではないからこそ、こうして記録に残っているのですが?」
 軽いパニックを起こしてしまったマサキをなだめようとシュウは用意しておいたクッキーをマサキに手渡す。
「少し落ち着きなさい」
「うるせえ。もとをただせばお前がわけわかんねえ情報ぶん投げてきたせいだろうが!」
「わけわかんねえ情報ではなくきちんと公的に記録された事実ですよ。……それほど驚くことでしたか?」
「驚くわっ!」
 全長一八〇キロを超える海洋植物が実在する。その事実だけでも受け入れ難いのに今度は齢八万年のクローン樹木である。しかも四万本。呆気に取られないほうがどうかしているのだ。
「あなたは本当に素直ですね」
「お前がとことん、死ぬほど、めちゃくちゃ性格悪いだけだろうが。少しはおれを見習えっ‼」
 もう半ば自棄になっているらしい。今にも地団駄を踏み出しかねない勢いだ。
「日常生活に特別支障をきたしているわけでもありませんので、謹んでお断りします」
 とうとうへそを曲げてしまったマサキにしかしシュウはにべもない。
「お前ほんとむかつく!」
 しかし、さすがにへそを曲げられたままでは困ると思ったのだろう。
「機嫌を直してください。おわびにフォスディオンへ連れて行ってあげますから」
 もう完全に子ども扱いである。しかし、耳慣れぬ言葉だったからかそこでぴたりと癇癪が止まる。
「どこだ、そこ?」
「ナブロ州にある泉です。地上にも同名の泉がありますが泉の構造もよく似ているのですよ」
「……そうかよ」
 感情の天秤が不満から好奇心に偏りつつあるのが目に見える。あと一押しだ。
「フォスディオンのある街は工芸品がとても有名なのですよ。特にオリハルコニウムを使った装飾品は高い評価を受けています。きっと喜ぶでしょうね」
 誰が、など問うまでもなかろう。
「——嘘だったらぶっ飛ばすからな」
「私があなたに嘘をつくはずがないでしょう」
 勝敗が決した瞬間であった。
「さて、そうとなればそれらしい用事を作っておかなくてはいけませんね」
 シュウはともかくマサキには魔装機神隊としての任務がある。気軽に観光になど出かけられる身ではない。ならば任務のついでに観光あるいは観光ついでの任務にしてしまえばいいのだ。
「少し調整しておきましょう」
 念のために見逃しておいた片手間で「掃除」可能な「障害」は、さて、どれを使おうか。
「このさいですからリクエストも一つ聞いておきましょう」
 従兄弟づかいの荒い才媛殿も大事に至らなければ適当な「戦果」を存分に活用してみせるだろう。
「何だよ。急に嬉しそうになったな、お前」
「少し面白いことを思いついただけですよ」
 ほんの少し口許を緩めて見せればそこに不穏な気配を感じたのだろう。マサキがわずかに後ずさる。野生の勘か。実に素晴らしい危機察知能力である。
「楽しみですね」
「……不吉な予感しかしねえ」

【Newsweek】180キロ以上に広がる世界最大の植物が発見される
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/06/180-6.php

【GIZMODO】世界最大の単一生物、ユタ州の森「パンド」は世界最古の生物かも
www.gizmodo.jp/2024/11/pando-earths-largest-oldest-living.html

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