道に迷った先でたまたま山賊に襲われている町を見つけた。だから、助けた。理由はそれだけだ。どうやら鉱山が近くにあるらしく町は鉱山に勤める坑夫とその家族たちが興した町であった。町の名はゴモックといった。
「いや、でもこれかなり高いよな? 受け取れねえよ‼」
うやうやしく手渡された小箱に詰められていたのは数粒の貴石。海の青より深く濃い神秘の結晶——ロイヤルブルーサファイア。
「いいえ。あのまま山賊どもに鉱山を奪われていたら私たちの町は終わっていたでしょう。むしろこの程度では礼にすら……‼」
「わかった、わかったよ。だから落ち着けって!」
押し問答の末、引き下がったのはマサキだった。それだけ人々の気迫と熱意が圧倒的だったのだ。
「っても、使い道なんて思いつかねえしよ」
「それであたしのところに来たってわけね」
頭を抱えたマサキが助けを求めた先はセニアであった。
マサキが持ち込んだロイヤルブルーサファイアはいずれも小粒であったが王族であるセニアから見てもその品質は非常に高かった。
「小粒でもこれだけ質がよければ結構な金額になるわね。こっちで手配してもいいわよ?」
「そんなに高いのか?」
「ええ。だってこれゴモック鉱山のロイヤルブルーサファイアでしょ?」
単にマサキが知らなかっただけでゴモック鉱山のロイヤルブルーサファイアはサファイアの中でも最高品質を誇ることで有名だったのである。
「……」
「どうかした?」
「あのよ、一つは残して置いてくれねえか?」
「別にいいけど、どうかしたの?」
「ちょっと思いついた」
その後、セニアのツテを頼りに自らの思いつきを無事実現したマサキはロイヤルブルーサファイアがはめ込まれたタイ・クリップを手に目的地へと駆け込んだのだった。
「礼に来てやったぜ!」
「まあ、そうよね。一方的に押しつけられたとはいえ一つくらいはお返しが必要よね」
シュウが魔術的・物理的加護を授けた装飾品をマサキに贈っていたことはセニアも知っていた。そこにかけた手間と金額も。
「……あいつほんと馬鹿じゃないの?」
実物を目にしたときはもう絶句するしかなかった。金に糸目をつけないとはよく言うが、だとしても限度というものがあるだろう。
そこでふと思い出す。マサキは今までの礼にタイ・クリップを贈ると言っていた。その選択自体に特別問題はない。あるとすれば「タイ・クリップを贈るという行為」そのものだ。サフィーネやモニカはともかくマサキが知れば大噴火は確実であろう。
「ごめん、マサキ。思い出すのが遅かったわ」
セニアは心の底から謝罪の言葉を口にする。一般的にはあまり知られていないがタイ・クリップを贈る行為にはいくつか意味が含まれている。それすなわち「あなたに首ったけ」「あなたを支えたい」である。どう考えても大事故だ。
「ごめん、マサキ。ほんっとごめん……‼」
その後の展開はお察しの通りであった。
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