2025/07/27 SS-悪運にサヨナラを

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SS_List2日記

「これで少しはその性悪を矯正しろ」
 突きつけられたのは一枚のポストカード。印刷されているのは一羽の青い鳥だ。
 背は尾も含めて光沢のある瑠璃色で尾の基部には左右に白斑があり喉、顔は黒で腹は白い。 全長は約一六センチ程度。オウサマルリハ。エリアル王国における「幸せの青い鳥」御三家の一羽であった。
「これは?」
「この間、ミオが任務でエリアル王国に行ったんだよ。その時『幸せの青い鳥』フェアやってたんだと」
 何となく勢いで関連グッズを衝動買いしてしまったらしい。ポストカードはその一枚であった。
「なるほど。しかし、なぜこれを?」
「お前、自分は悪運持ちだって前に言ってたじゃねえか」
 だから、これでも飾って少しはその性悪と悪運を矯正しろ。何とも尊大な物言いであったがシュウは呆れるよりも先に微笑ってしまう。
 シュウが口にした悪運は不運という意味では無い。「悪事を働きながらその報いを受けないほど強い運」だ。そこはマサキもよく理解しているだろう。それをポストカード一枚で真っ当な幸運に矯正しろとはまったく無茶を言う。
「ラピスラズリのお礼というわけですか」
 以前、シュウはラピスラズリの原石を加工して作られたショートケーキをマサキに贈っていたのである。理由は至って単純。幸運の象徴は幸運に祝福された人間が所持するべきだと思ったからだ。「幸せの青い鳥」はその返礼に違いなかった。
「では、ありがたく頂戴しましょう」
 真実、幸運の祝福を受けた人間から手渡される「幸せの青い鳥」だ。その加護は信頼に値する。
「……何にやついてんだよ」
「素直に喜んでいるだけですよ」
 どうやら顔に出てしまったらしい。
「しかし、私に『幸せの青い鳥』ですか」
 我が事ながらこれほど似合わない組み合わせもないだろう。自然に湧き出た自嘲に一瞬喉が震える。
「さて、私の悪運がいつ幸運に変わるのか。楽しみですね」
 物言わぬ「幸せの青い鳥」を手に目の前の「幸福」を思う。「悪人」のためにわざわざ「幸運」を運ぶなど物好きもいいところだ。正直、感心するより呆れてしまう。けれどそれはシュウにとっての唯一無二から贈られた掛け値なしの善意。
「すでに十分恵まれているのですが」
 とても楽しみだ。

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