SS-▼手のひらの蒼穹
「さて、どうしましょうか」
手元には紺青のガラスペンと同色のインク。贈り物としての見栄えはいいほうだろう。羽を象ったガラスペンはシュウから見ても見事な業だった。
「困りましたね」
もともと買うつもりなどなかった。けれど偶然通り過ぎた文具店のショーウィンドウに飾られたこれが目に留まった瞬間、ドアをくぐっていたのだ。
陽の光すら吸い込むほどに濃く深い「空」。そう錯覚してもおかしくないほどに鮮やかな紺青だった。そしてそこに並んで飾られていた同色のインク。店主にそれらを所望したのは必然だったのかもしれない。
「あなたはどう思うでしょうね」
まず間違いなく面食らうだろう。そしてうさんくさげにシュウを問いただすに違いない。彼に対する贈り物としてこれほど不似合いなものもないのだから。
「本当に困りました」
けれど言葉とは裏腹に口許は緩むばかり。
目に浮かぶ。何だかんだと文句をつけながら結局マサキはガラスペンを受け取るだろう。悪意あってのものならともかくこれは紛れもない善意からの贈り物なのだから。
「人が良すぎるのも困りものですね」
そこにつけ込んでいる自覚はある。
「しょうがねえ奴だな、お前はよ」
シュウの機体と同じ紺青のガラスペンを手に困惑しつつもそう言って笑うだろう。
手のひらの蒼穹。彼の手を染める紺青。
「あなたの瞳にはどんな『空』が見えるのでしょうね」
シュウが問えば口下手なマサキはきっとしどろもどろに、それでも本人なりに一生懸命答えてくれるだろう。ああ、楽しみで仕方がない。
「……ご主人様、性悪」
「聞こえませんね」
半目のチカを振り返りもせず喜々として次の予定を立てる。
後日、ガラスペンとインクのセットに追加する形で新たに贈られた緑水晶のインク瓶にマサキが絶句したのは言うまでもない。
「お前はもうちょっと労力を割く方向を考えろ……」
