SS-石ころさん。

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SS_List2日記

 小さな植木鉢にみっしりと詰まったカラフルで奇妙な柄の石ころ。そう、どう見てもただの石ころだ。だが、目の前の男はこれがめずらしい『お土産』であると言う。こんな石ころの一体何がめずらしいのか。絵に描いたような性悪男の言である。もしやからかわれているのかと身構えたが同時に嘘はつかない男であることを思い出し『お土産』を突っ返す寸前で思いとどまる。
「リトープスです」
「リトープス? 石ころに名前があるのか?」
「いいえ。石ころに見えるかもしれませんがこれは立派な植物ですよ」
「へ?」
 植物。植物と言ったか今。差し出された事実を即座に理解できなかったマサキは思わず手にした植木鉢を二度見する。確かに石ころにしては奇妙な柄をしているとは思ったがまさか植物であったとは。
「石じゃねえのか?」
「リトープスはツルナ科リトープス属の多肉植物です。花期はもう少し先ですが頭頂部に割れ目のようなものがあるでしょう? ここからマツバギクに似た花が咲くのですよ」
「へえ。でも何でいきなりこんなもん土産にしたんだ?」
「先日、所用があって南アフリカ近くまで足を伸ばす機会があったのですが、たまたま露天に並んでいたのが目に付いたのですよ」
 リトープスについてシュウが記憶していたのはマツバギクに似た花が咲くという程度の知識であったが、そこからマツバギグが明治時代に日本へ導入されたことを連鎖的に思い出したらしい。
「相変わらず無駄に高くて広ぇ記憶力してんな」
「おかげでいろいろと助かっていますよ」
 嫌味のつもりもあっさりかわされてしまう。
「そうかよ。で、結局、こいつを買ってきた理由って何なんだ?」
「あなたを思い出したからです」
「は?」
「マツバギグの起源は南アフリカ原産の多年草ですが今や日本に普及して久しい。立派な日本の花でしょう?」
 だから、日本人であるマサキを思い出したのだと。
「それにリトープスは【脱皮】をするとても個性的な植物です。あなたの興味も引くでしょうから」
 本当にそれだけの理由らしい。
「……」
「どうしました?」
「お前さ」
 やはり、ここは一度言っておくべきだろう。でなければいずれこちらの身が持たなくなる。
「おれのことほんと好きだよな」
 少しは自重しろ。そして、一度でいいから財布の紐を締めろ。
「お断りします」
 一瞬の間すらないそれは見事な即答であった。
 『お土産リトープス』は無事お持ち帰りとなった。

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