「二度も大事故に遭いたくないんだけど」
「まあ。気持ちはわかりますけど、それ言ったらセニアさんに怒られません? 期限付きなんですよね」
「そうだよ。だから余計に面倒くさいんじゃないか」
とあるセーフハウスの玄関先でチカとテリウスはそろって明後日の「世界」を眺めていた。現実逃避である。
チカが期限付きと指摘したのはテリウスが手にする一枚のデータディスクだ。中身はとある民間軍事会社の裏帳簿である。今回、テリウスはセニアの代理としてこの帳簿の解析をシュウに依頼しにきたのだった。
「……マサキいるんだよね?」
「いつも通り、くるまって熟睡中です」
「何に」とは聞かなかった。
「あれ、つけ上がるだけだからやめさせたほうがいいと思うんだけど?」
「無理じゃないですかね。もう習慣になっちゃってますし」
テリウスは天を仰いだ。
「やっぱり大事故確定じゃないか」
「ご愁傷様です。さ、覚悟を決めて入った入った‼」
かしましいローシェンに追い立てられるままテリウスは玄関を抜けてリビングへ。そして、目的の人物を視界に収めると同時に絶望した。現実は非情である。
「わかってやってるよね、これ?」
「おや、テリウスですか。申し訳ありませんが今取り込み中です。少し待っていてもらえますか」
「少しじゃなくて素直に一晩って言いなよ。性格悪いよ、ほんとに」
ソファで悠然とレポートをめくるシュウのかたわらには見慣れた外套にくるまった塊が一つ。そこから微かに聞こえてくるのは紛れもなく寝息だ。そして、シュウの足下では誰かさんの使い魔二匹が寄り添って午睡をむさぼっていた。
「眠ったのっていつ?」
「一時間ほど前ですね。今回は夜間での戦闘が多かったそうですから」
「じゃあ、ほんとに今晩は起きそうにないね」
この様子では片時もそばから離す気はないのだろう。
「理解が早くて助かります」
「正直、理解なんてしたくないけどね」
だが、理解できなければ待っているのは悲惨な未来である。テリウスは素直に諦めた。この男が従兄弟の時点で人生とは諦観すべきものであったのだ。
「それにしても、素直に部屋に引っ込めばいいのにどうしてわざわざ待ってたんだか」
ひとまずゲストルームへの追い払われたテリウスに、
「あ、言ってませんでしたね。今日一一月二二日なんですよ」
「知ってる。それが何だよ」
「地上だと『いい夫婦の日』らしいですよ、今日」
「ちょっと姉さんに通報してくるよ」
匙を投げる、では生ぬるい。
テリウスは容赦なく姉への専用回線をオープンにしたのだった。
SS-テリウス・グラン・ビルセイアの諦観
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