SS-愛でも恋でも

SS_List2
SS_List2日記

「まあ、ろくな死に方はしねえだろうなって自覚はあるんだけどよ」
「それで?」
 ビスケットをかじりながら突然物騒なこと言い出したマサキに、けれどシュウは動じることなく平然と続きを促す。その視線は手元の稀覯本に固定されたままだ。
「それでも、まともな死に方しねえとまずいってのは理解してる」
「それはどうして?」
「お前より先にろくでもねえ死に方したらあとが怖ぇんだよ、あとが」
 きっと息を吐くようにろくでもない報復に出て、まるでそれが当然の権利とばかりに完遂してみせるだろう。なぜならマサキが知る人間の中で目の前の男は誰よりも執念深かった。そう、その執念から破壊神さえ木っ端微塵にしてしまえるほど目の前の男は情け容赦のない完璧主義者だったのだ。
「それはまた、ずいぶんな言いようですね」
「事実だろうが」
「否定はしませんよ」
 それみたことか。マサキは肩をすくめて呆れ返る。自覚がある分、余計に質が悪いのだ。
「けれど、それくらいは別にかまわないでしょう?」
 まだ見ぬ明日の仇敵はそれだけの罪科を犯したのだ。
「かまうわ! お前は一度でいいから自分の影響力ってもんを真面目に考えろ」
「その台詞、あなたにだけは言われたくないのですが」
 呆れが礼に来るとはこのことか。シュウは稀覯本を閉じるとわざとらしくため息をつく。
「何でだよ」
「たった今あなた自身が言ったではありませんか。私が報復に出るとしたら、その理由は他でもないあなたにあるのだと」
「あ」
「他者に対する私の影響力が小さくないことは認めましょう。ですが、その私に報復を促すほどの影響を与えているのはあなたですよ、マサキ。あなたのほうこそ少しは自身の影響力について省みてはどうです」
 魔装機神サイバスター操者マサキ・アンドー。聖号ランドール・ザン・ゼノサキスを賜与された救国の英雄。
 その発言は一国の元首に並び、あらゆる権力に従わなくてもよい権利を有する、この世でただ四人しか存在しない魔装機神操者の一人。
「他者に対する影響力でいえば私などあなたの比にもなりませんよ。あなたの発言は国どころから世界を動かすにあたう。少しは自覚を持ちなさい」
「えっと……」
「そもそもどうしたのです。唐突なのはいつものことですが」
「いや、何となく……、その」
 たまたま仲間内で将来について話す機会があったのだという。そこで、操者として召喚された地上人は基本的に長生きしないだろうという話になったのだとか。
「まあ、その可能性は高いでしょうね」
 操者として召喚された——身代わりの生贄。
 ラ・ギアスにおいては根無し草も同然である地上人たちの将来を保証するものは何もない。そもそも召喚者であるラングランが地上人たちに期待したのは「勝利」であってその「将来」ではなかった。
「けれど、以前にも言ったでしょう」
 その日が訪れたならあなたは私が連れて逝く。だから、それまでは生きてもらう。そう、告げたのはこれで二度目だ。
「そこは、まあ……、覚えてるんだけどよ。どうしようもないときはどうしようもないだろ?」
 だから、せめてろくでもない死に方だけはしないように改めて決意したらしい。
「そんな決意に労力を割くより、生き延びる努力に全力を尽くしてほしいですね」
 おそらくそれが「世界」にとってもっとも安全な未来に繋がるだろう。
「そういう言い方はねえだろ」
「そういう言い方をさせているのはあなたでしょう」
 まったく、少しは聞かされる側の心情を慮ってほしいものだ。そこで会話はいったん途切れるが、短くない沈黙に身の置き所がなくなったのだろう。先に声を出したのはマサキだった。
「なあ」
「何ですか」
「ほんと報復とかやめろよ?」
「それはあなた次第ですね」
 らしくない懇願もあっさり一蹴されてしまう。
「お前ほんとどうしようもねえ奴だな……」
「あなたほどではなりませんよ」 
 ああ言えばこう言う。
 ああ、本当にどうしようもない。
 マサキは天を仰ぐ。
 どうしようもない。だから、やはり置いてはいけない。
 きっとその日が来たら互いに刃を向けることになる。それなのに、どうしても。
 この感情には名前がない。付けようがない。わからないのだ、本当に。
 けれど、これが恋でも愛でも、結局、面倒くさいことに変わりはない。面倒くさいから、やはり生き延びるしかないのだろう。
「どうしようもねえなぁ」
 本当に面倒くさいのはどちらだろうか。

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