それは「猫の日」にふさわしいちょっとしたニュースだった。
「微笑ましい記事ですね」
「何だよ。何かあったのか?」
シュウが手にしていたタブレットをのぞき込んでみれば、そこには黒板を背に誇らしく胸を張る一匹のキジトラの姿があった。
「パオダ州立大学でキジトラのオス猫——『マックス』に博士号の学位が授与されるのですよ」
「博士号って……、猫だよな?」
「ええ。マックスは学生の飼い猫で毎日飼い主と一緒に授業に出席していたようです」
朝は正門で学生たちを出迎え、日中は飼い主と共に講義に耳を傾ける。暖かい日は例えテスト当日であろうと机を占拠して丸くなった。
マックスは誰より自由で愛らしく、時には大学に入り込んだ野犬を追い払うほど勇敢だった。そして、大学はそんな優秀な「生徒」であるマックスに名誉博士号を授与することを決めたのだった。
「何かスゲぇ平和なニュースだな」
「ええ。あなた方の努力が報われた証拠ですよ」
「努力って……、ああ。あの大学ってこいつの大学だったのか!」
パオダ州にはラ・ギアスにおけるシュウのアジトがあるのだが、先月、その周辺都市でテロリストによる立てこもり事件があったのだ。そして、そこにはフィールドワークで訪れていたパオダ州立大学の学生たちも巻き込まれていたのだった。
「あの事件が無事に解決できていなければ、このような微笑ましいニュースはなかったでしょうね」
巻き込まれた生徒は十数名。極度の疲労とストレスでほとんどの生徒が体調を崩していたが、負傷者はなく、無事、全員を保護することができた。
「なんつうか……、その、ちょっと……、いい気分だな」
あの一件で自分たちの功績が大々的に報じられたわけではない。それどころか、事態の収拾に思いのほか時間がかかったことを議会で非難されたほどだ。
対してこれは小さな、とても小さな地方のニュースだ。けれどここには自分たちの努力が報われた証がある。それはとても誇らしいことだった。
「授与式は外部にも公開されるそうですよ」
「……大丈夫か?」
「救国の英雄の訪問です、もろ手を挙げて歓迎されるでしょう」
「やっぱ行かねえ」
「なら、お祝いの品だけ贈っておきましょう」
大学のSNSアカウントではマックスの好物も公開されていたのだ。
「少しは気が紛れましたか?」
何か思うことがあったのだろう。何の前触れもなくシュウの元を訪れて半日。マサキはどこか憂鬱げだった。
「紛れたっつうか……、さっきも言ったけどよ。何かちょっといい気分だ」
その表情は実に晴れ晴れとしていた。
「それは良かった」
シュウは再びタブレットに視線を落とす。そこには誇らしげに胸を張るキジトラが一匹。
「あなたには感謝しかありませんね、マックス博士」
数日後。大学宛にマックス名誉博士の大好物——プレミアム猫缶が山のように届き、これもまたちょっとしたニュースとして地方紙に掲載されることになるのだった。
SS-マックス
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