技など不要。ただ振り上げ振り振り下ろし、時に突きなぎ払う。見よ。結ぶ刃に曇りなく死と鬼気と歓喜が築いた朱の盤上で高らかに謳う者よ。天にあっては雲を裂き、地にあっては大地を喰らう者こそが勝者である。
武とは舞。
白銀と紺青 。殺意を引き連れ闘志を御者に今互いの命を杯に変え鋼の巨人が天地の境で謳い踊る。
邪神は滅した。和解には遠いものの敵対する理由はひとまずついえ、お互い適当な距離に落ち着いたはずであった。そう、争う理由は消えたのだ。にもかかわらず眼前の光景は何か。ただただ誰もが立ち尽くす。
それは一種の病であった。
追いて追われて殺し殺され。
剣戟が殺意を描き火箭の群れが空を焦がす。
憎悪ではない憤怒ではない。強いて言うなら——渇望。
命をその存在の一切をおのれの手で奪い取る。なんと野蛮で残酷なけれど打ち震えるほどにいとおしい狂気の沙汰か。
これは病だ。
「相変わらず鬱陶しい手を使いやがる」
「直感任せのあなたよりはマシですよ」
「抜かせ。その直感に負けてくたばったのはどこの野郎だ!」
「ええ、ですからここでその雪辱を果たさせててもらいますよ」
「はっ、やれるもんならやってみな。今度もぶちのめしてやるぜ‼」
「本当にいつまでたっても下品ですね、あなたは」
生死の境で交わし合うのは軽口だ。そしてその口許を彩るのは輝く笑みであり隠しようのない嗜虐と殺意。何という恍惚感か。
争いは無益だと愚かにも割って入る者はいない。いるはずがない。ここは天地と生死の境。招かれざる者に立ち入る術はないのだ。
誰も彼をも置き去りにして白銀と紺青の巨人はただ切り結ぶ。
今この瞬間【世界】は彼らのためにあった。
これは病だ
