CAT ISLAND

短編 List-1
短編 List-1

 弱者を一方的に虐げることで日頃の鬱憤を晴らす者あるいは快感を得る者。度し難い恥知らずはいつの時代どの世界においても一定数存在する。
 泡と涎を吹いて痙攣する数匹の猫。うち二匹は子猫だった。体が小さい分毒の周りが早かったのだろう。すでに冷たくなっていた。
「醜悪な」
 犯行現場を目撃され浮き足立つ犯人たちには目もくれずシュウはかろうじて息のある白猫に駆け寄り、地面に片膝を着くと同時にその心臓部分に毛皮の上から指を置く。
「出自の都合上、毒に関する知識は徹底的に叩き込まれましたからね」
 もちろん解毒に関する知識も実施試験込みで。
 島に大量の猫が住んでいることを逆手にとって悪逆を成す人間がいる。毒餌をまく人間、虐げるためだけに猫を連れ去りなぶり殺す人間。中にはその虐殺の様をわざわざネットでさらす者までいるという。挙げ句の果てにはそれを称賛する人間まで。
「……情けねぇ」
 そう臍をかむマサキに何と声をかければよかっただろう。シュウには知らず握られた拳に手を添えるだけで精一杯だった。
「さて、因果とは応報するもの。当然、その覚悟があっての悪行でしょうね?」
 白猫の痙攣は治まっていた。弱ってはいるが時間が経てば自力で歩けるようになるだろう。シュウの人差し指には直径一センチ程度の茶色く濁った滴が浮かんでいた。
「小動物にとっては致死量でしょうが幸いあなたたちは人間です」
 この程度の毒物では致死量にはほど遠い。だが、それだけにしばらくは悶え苦しむことになるだろう。
 滴は徐々に大きくなっていく。死した軀から吸い上げたものいまだ使われることなく保存されているもの。それらすべてを吸い上げやがて毒の滴は握りこぶしほどの大きさにまで成長する。
「どうぞ。受け取りなさい。これがあなたたちへの応報です」
 刹那、閃光をともなって滴が爆ぜる。聞き苦しい絶叫のあとに残ったのは陸に打ち上げられた魚よろしく口をはくはくと開閉させながら悶え苦しむ犯罪者の群れだけだった。
「安心なさい。どれだけもがき苦しもうと死にはしませんから」
 存分にのたうち回るがいい。犯した罪科にふさわしく。
 弱ってはいたものの何とか死の淵から生還した白猫を腕に抱えシュウはそのまま踵を返す。途中、抱えられた腕から落ちてなるものかと必死で爪を立てる白猫に自然と口許がほころぶ。野生に生きるだけあって彼らは生きることに貪欲だ。小さな体で懸命に死に抗うその様はある種の敬意に値する。
「心配せずとも死なせはしませんよ」
 生きるためにこの小さな命は死に抗う「義務」を果たした。
「すみません、遅くなりました。マサキ、保護団体の方は今日休憩所にいる予定でしたね?」
 ならば「権利」は履行されるべきだ。

タイトルとURLをコピーしました