「泥団子でクリティカル食らうバイオハザードって……。何よそれ」
「マサキも同じことを言っていましたよ」
「言いたくもなるわよ。まさか、そんな身近なものが弱点になるだなんて普通思わないもの。本当に運が良かったわね」
「いつものことですよ」
『幸運』とは彼に微笑むものであり、彼は『幸運』に微笑まれる者であった。
「それで、今回の報酬は何が希望? 言っておくけど休暇はなしよ。今がその真っ最中なんだから。それ以外にしてちょうだい」
「心得ていますよ」
「じゃあ何にするの?」
「休暇が終わるまで緊急召集以外でマサキを呼び出すのをやめてください」
もともと気分転換のためにモールへ出かけたのだ。にもかかわらず結果はこの有り様。緊張が解け、死霊兵器を相手に生身で立ち回った疲労が一気に噴出したのだろう。マサキは今リビングのソファに転がり口を半開きにして熟睡中であった。あの様子では今日はもう目を覚まさないだろう。
「あら、意外に無欲ね」
「わきまえているだけですよ」
だいたい魔装機神隊の出動を要するほどの大事は今のところ起きてはいない。その予兆もだ。だからこその休暇であった。
セニアとの会話を切り上げるとシュウは当然のようにリビングのソファに向かう。
「スフェーンの対物防御壁もありましたし魔方陣も入念に敷きました。万が一などありえるはずもない。わかってはいたのですが」
正直、マサキに囮役を任せたことに罪悪感はあった。あれがあの時点での最善策であったとはいえ、どうして他の方法を模索しなかったのか。幸いかすり傷ひとつ負わずに済んだからよかったものの、これで顔に傷でもついていたらどうなっていたことか。
「……生身でブラックホールクラスター撃ちかねませんよね、ご主人様」
冷静な指摘の主は数メートル離れた窓際で丸まっていたチカであった。日なたぼっこはストレス解消に有効なのである。
それはさておき、さすがに生身でブラックホールクラスターは誇張が過ぎる表現であったが確かにモールの一角くらいは灰燼に帰しただろう。すでに放棄したとは言え神聖ラングラン王国王位継承者の一人。「調和の結界」に魔力を供給できるだけあってその魔力量は相当だ。火力に転換すればショッピングモールの一つや二つ容易に消し飛ぶだろう。
「あなたにつき合っているといくつ心臓があっても足りませんよ」
そっと触れた頬は温かい。本当に無事で良かった。
「しかし、困りましたね」
今日の一件でずいぶんとマサキの機嫌を損ねてしまった。果たして食事を奢る程度でそれを補えたものか。
「いっそ地上に出てみましょうか」
今度こそいい気分転換になるだろう。地上には死霊兵器など存在しないのだから。
「えー、でも地上に出たら出たでまたハガネのみなさ——」
「何か言いましたか?」
「言ってないデースっ‼」
か弱いローシェンは賢明であった。
さて、残る休暇は果たして無事平穏に終わるのか。
未来は神のみぞ知る。
ハントゥ・トゥラング・マワス
短編 List-2